中国からの密入国者を乗せた船が、その船に乗っていた中国マフィア"蛇頭"のメンバーである、「ゴースト」と呼ばれる男によって爆破され、逃げ出した密入国者をゴーストは殺そうとします。事前にこの船がやってくるのを待ち受けていた捜査員たちは、リンカーン・ライムの指揮の下でゴーストと、そして難を逃れた中国人家族らの行方を追います。
本作では、ゴーストの冷酷さや蛇のような執念深さもさることながら、勝手に捜査に入り込んでしまう中国人刑事のソニー・リーの存在感が際立つものとなっています。彼とライムの間で芽生える友情と、それによって障害者であるライムが自らの在り方を受け止める姿は、本作の大きな見どころ。
緊迫感溢れる海の上で始まり、チャイナタウン、蛇頭、老子や孔子の思想、特有のつながりを重んじる中国人社会、サックスの海中での鑑識活動など、実にオリエンタルな空気とバリエーションに富んだ舞台移動で、本作もまたこれまでのシリーズ作品に劣らずエンターテインメント性の高いものとなっています。
ですが一方で、事件を中心に見た物語の展開は、犯人の姿が明らかになる瞬間は劇的である反面、良くも悪くも映画的――言い換えれば、どこかで見たような展開に終わっている気もしないではありません。
中国人社会を描いた部分でも、欧米人特有の過剰なオリエンタル趣味のようなものが若干作品を色物にしているような印象もないわけではありません。
もっともスリルに満ちた展開、話の運びの上手さは常に一定以上のレベルを期待して裏切られることのない作品であることは事実ですし、ソニー・リーというアクの強い脇役とライムの会話などは、シリーズ読者であれば必見と言えるでしょう。