畠中恵 『しゃばけ』

しゃばけ (新潮文庫)
 江戸の廻船薬種問屋の長崎屋の若だんなの一太郎は、生まれつき極度の病弱で、両親ばかりか店の者にまで常に心配され大切に育てられます。ところが祖父母が彼につけた妖怪の手代の目を誤魔化して、密かに外出をした一太郎は、人殺しの場面を目撃してしまいます。何とか無事に帰り着いて、馴染みの妖怪たちに頼んで事件を調べる一太郎ですが、薬種商ばかりを狙った事件が起こります。

 江戸情緒と呼ぶに相応しい、身近に潜む闇の濃さと人情味に溢れた物語。
 ミステリとしては謎の難度も決して高くありませんし、本作ではあくまでも「ミステリ」は物語のガジェットに使われているに過ぎないという印象もややあります。ですが、妖怪たちの存在が当然のように受け入れられる作品世界の構築がなされ、その上でしか成立しない事件の真相の演出はきっちりなされていますし、細やかな情感でもって繊細に紡がれた作品として、本作は高く評価することができるでしょう。