チェルシー・ケイン 『ビューティ・キラー3 悪心』

ビューティ・キラー3 悪心
 逃亡中の<ビューティ・キラー>と名付けられた連続殺人鬼、グレッチェン・ローウェル。警察の追手をかわして逃亡を続けるグレッチェンには、マスコミの報道を通じて今や熱狂的なファンがおり、彼女が過去に殺人を犯した事件現場は人気の観光スポットとなっています。そんな中、殺害された人間のものと思われる遺体の一部が発見され、その現場にはの犯行を示すサインが残されていました。グレッチェンによって命の危険に陥れられた刑事のアーチーは、病院での生活を続けていましたが、病院の警備をあざ笑うかのように彼の前に見え隠れするグレッチェンの影を感じます。そして、グレッチェンの新たな犯行現場と思われた場所で、アーチーは一枚の写真を見つけます。その写真には、グレッチェンの初期の事件とされてはいるものの、未だに真相が解明されていない事件の関係者が写っていました。

 前作で逃亡したシリアルキラーのグレッチェンと、彼女の犯罪の唯一の生存者の刑事アーチーの複雑な関係が一層混迷するシリーズ3作目。
 マスコミでクローズアップされる、容貌が美しく、優れた頭脳を持った連続殺人鬼のグレッチェンに、熱狂的なファンがつき、彼らがファンサイトまで立ち上げてしまう異様さは、マスコミとインターネットという媒体によって歪んだ社会の一面として、奇妙なリアリティを持って感じられます。
 シリーズ3作目となる本書では、妻子がありながらグレッチェンに心を奪われた揚句に殺されかけ、今でも彼女の呪縛に苦しむアーチーと、残忍な方法でアーチーを死の寸前にまで追い込んでおきながらも、自らその命を助け、彼に執着し続けるグレッチェンとの関係が、また新たな局面に入ったという点も、見どころのひとつかもしれません。
 さらには、過去の事件の真相、そして現在の事件の構図、そしてそれらが明らかになる過程が実に説得力を持って描かれており、過去2作と比べてもより引き込まれる作品となっていると言えるでしょう。