J・B・スタンリー 『ベーカリーは罪深い』

ベーカリーは罪深い ダイエット・クラブ1 (ランダムハウス講談社 ス 5-1)
 母親を亡くし、すっかり偏屈になって人を寄せ付けようともしなくなった父親と暮らすために故郷に帰ったジェイムズは、自分の体重が125?を超えたその数字を見て愕然とします。離婚し、好きだった大学の職を辞して故郷の田舎町で気難しい父親の面倒を見なければならない、食べる以外に楽しいことなどない負け犬のような人生を送っていたジェイムズは、ふとしたきっかけで誘われたダイエットクラブ「デブ・ファイブ」に参加することになります。ですが、彼らデブ・ファイブの面々が愛してやまないお菓子やパンを売る町一番のベーカリーで殺人事件が起こってしまいます。殺された男に迷惑していた感じの良い娘のために、ダイエットの集まりのついでに、デブ・ファイブのメンバーたちは事件のことを調べ始めます。

 スナックや甘いものがたまらなく大好きで、事件が起こったベーカリーに駆けつければ、そこが犯行現場であることよりも、陳列されたおいしそうなクッキーやらケーキに目が行くデブ・ファイブ。そんな彼らの活躍する本作では、事件そのもの以上に彼らのダイエットの行く末が気になってしまいます。
 時には挫折して自ら禁じていたスナックを貪ってしまったり、毀誉褒貶相半ばしながらも、ダイエットとともに事件の犯人への手掛かりをひとつひとつ掴んでいく展開は、起伏に富んで中だるみも感じさせません。おそらく事件の真相究明だけであれば、ありきたりなミステリに終わっていたのでしょうが、登場人物たちの愛すべき個性と、彼らの切なる願いであるダイエットが同時進行であるがゆえに、本作は、人間味に満ちた味わいの深いコージー・ミステリに仕上がっているのでしょう。