学園祭の2日目、公には世界で6人しか見つかっていない魔術師の一人である佐杏のゼミ生である天乃原周は、不吉な夢を見ます。過去の経験から、それが予知夢であることを感じ取った周は、夢に出てきた不吉な未来が現実になることに恐れを抱きますが、魔術師で大学の客員教授である佐杏のにこれから起こるかも知れない事件についての相談をします。法衣のような装束に仮面をかぶった人物に首を絞められるというその夢は、いつどこで、そして誰に起こるものなのか。
前作『トリックスターズD』の事件直後、学園祭2日目の物語。
かつて母親に起こった事件がトラウマとなっている主人公の周は、その経験ゆえに心を許した身近な人間が危険にさらされることに恐れを抱きます。「定まっているだろう未来を変えることはできない」という絶望を持ちつつも、何とかして自分に出来る限りのことをしようと周が思えるのは、相談した佐杏からかえってきた「助言」だけではなく、これまでの事件を通じて周が自分の近くにいる者たちに心を開いてきたという経緯があるゆえなのでしょう。
また主人公の成長物語というシリーズを通しての流れの面だけでなく、「名探偵」という存在そのものについて描かれる部分など、本作ではこれまでの3作と比べればボリューム的には少ないながらも、コンパクトでありつつ読み応えのある一作となっていると言えるでしょう。
そして、「変えることのできない未来」を先に提示することで、結果から遡って事件を推理するという物語構造のユニークさが何よりも本作では特徴的なものとなっています。その中で、読者に仕掛けられるミスリーディングと、どこまでもフェアに示される手掛かりとのバランスも良胃と言えるでしょう。
また、巻末に収録された短編『トリックスターズ 彼女たちの花言葉』は、安楽椅子探偵モノの日常の謎めいた物語であり、鮮やかな論理展開とそれによって導かれる見事な落としどころが秀逸な作品です。