エリス・ピーターズ 『修道士カドフェルシリーズ8 悪魔の見習い修道士』 光文社文庫

悪魔の見習い修道士―修道士カドフェルシリーズ〈8〉 (光文社文庫)

 サブタイトルから、物凄く邪悪な見習い修道士が出てくるのかと思いきや、“悪魔”はむしろ一見天真爛漫で賢いあの人物でしたね。確かに中世の修道院なんかだと、悪夢にうなされて唸り声でも上げようものなら「悪魔憑き」のレッテルを貼られかねないのかもしれませんけど。
 今回の悪役は本当に「悪役らしい悪役」ですし、それに翻弄されてしまう周囲の駄目っぷりも良かったです。やっぱりこのシリーズ、毎回脇役の人物に対する書き込みが丁寧なので物語にすんなり入り込めます。

 ただ謎そのものは今回は小粒だし、限られた人物関係を見ていれば「何故彼が見習い修道士になったのか」の背景と言うのは何となく想像できてしまうんですよね。
 また死体が出てくるまでが結構長いですし、被害者となった人物の生前の姿というのが今ひとつ鮮明でなかったので、犯罪そのもののインパクトは薄かったような気がします。最後にカドフェル達が仕掛ける罠の部分はとても面白かったんですけどね。
 今回の物語は犯人と被害者の関係と言うのは(シリーズ全体の流れの中ではこの小さな動きも重要なのかもしれませんが)この物語の中ではあまり比重は大きくなくて、あくまでも「家族」が中心なんですね。