朱川 湊人 『花まんま』

花まんま
 第133回直木賞受賞作。
 直木賞の候補にあがるちょっと前から、ネットの中では割と評判の良い1冊だったので気にはなっていましたが、賞のお陰で本屋では随分と平積みにされていますね。

 中身は6篇の独立した短編集なのですが、これらの話の間に直接の繋がりは無いものの、各作品の中には共通する空気が確かにありますね。
 昭和の時代が色濃く感じられる頃の、大阪の路地裏。この時代・この場所では、まだどこかに不思議なものは不思議として存在することが許されていて、それと同時に綺麗事ではない生々しいまでに深い人間のコミュニティというものがまだ失われない、そんな時代性を感じる作品集だと言えるでしょう。
 作品のジャンルとしてはホラーなのでしょうけれども、ノスタルジック・ホラーとでも言う感じで、あまり怖いという印象は良い意味でありません。
 もう無くなってしまっているけれども、どこかで懐かしいと感じる昭和と言う時代を、体温を感じさせるように見事に描いている作品集ですね。
 直木賞などの賞向きの作品であるのは確かですし、良い話だなと思います。