シオドア・スタージョン 『きみの血を』 

きみの血を

 文庫で250頁にも満たない薄い本ですが、内容は過不足なく、非常に完成度の高い作品であるということが言えるでしょう。
 物語はさしたる山場もなく、主に軍の士官と精神科医の非公開の往復書簡、そして軍によって精神病院に隔離された危険な男の回想録で淡々と綴られます。
 一通の手紙について上官から問い質された無口な兵士が、突然豹変し、怪我をした自分の血を吸い始めるという異常な行動を取ったのは何故なのか。貧困と父親の暴力に彩られた、兵士の少年時代から語られる回想録に隠された、この狂人の深層心理を明らかにしていく物語の結末は、隙の無い説得力を持っています。
 ただ、解説で書かれているように「吸血鬼物」と言われると、些か偏った先入観を持ってしまうかもしれません。むしろ本書はサイコ・サスペンスや心理ホラー的な要素を持った謎解きという側面が強いのではないでしょうか。正常な人間の吸血行動の背景にあるものを暴き出す、という点では、非常に個性的な吸血鬼物であると言えるかもしれません。
 冒頭と末尾に、物語の導入として神の視点とでも言うべき語りかけがありますが、これが非常に効果的で、何とも言えない余韻を読後に残しています。