フランク・ジェッツィング 『グルメ警部キュッパー』

グルメ警部キュッパー (ランダムハウス講談社 シ 5-1)
 資産家夫人が何物かに殺害され、ケルンで警部を務めるキュッパーが捜査に当たります。被害者に恋人との仲を割かれた共同経営者、複雑な事情の家族など、誰もに憎まれている被害者を殺した容疑者はなかなか絞りきれません。

 「殺人現場の食べ物をつまみ食い」「容疑者相手にレシピを交換」など、あらすじからは非常にユーモラスで魅力的な登場人物に引っ張られる物語を期待したのですが、正直なところ色々な意味で中途半端感の否めない作品。
 「グルメ警部」を売りにしている割には料理の描写も中途半端ですし、キュッパーをはじめ登場人物の人物造詣も表層的であり、心理面への踏み込みが浅いために複雑に絡み合っているはずの思惑が今ひとつ見えてこないまま結末がやって来るので、真相が明かされて本来受けるべきサプライズなり何なりもほとんど感じることが無かったと言わざるを得ないでしょう。
 また、場面転換が細切れで、ただ淡々と容疑者の取調べを行う傍らで料理の話が挿入される形式に関しても、全体を単調かつ冗長に感じさせられてしまうあたり、少々読んでいて厳しかったです。
 「グルメ警部」の要素と事件の真相が密接に結び付いているということがあれば、また違った感想を持ったのかもしれないという印象。