真梨幸子 『パリ警察1768』

パリ警察1768 (徳間文庫)

 21年後にフランス革命を控えたルイ15世時代のパリ。悪名高いサド侯爵を監視し、その醜聞を最小限にとどめる役目を負わせられているルイ・マレー警部のもとに、サド侯爵が拾った女乞食を虐待し、逃げ出した女を助けた人物が侯爵を訴えたという報せがもたらされます。さらには、かつてサド侯爵が最初に訴えられた際の被害者である女の死体が惨たらしいさまで発見されます。

 本作は、サド侯爵を監視し続けた、ルイ・マレー警部という実在の人物を中心に据えたことで、サド侯爵やデオンの騎士などの突出したキャラクターのみでは描けないフランス革命前夜という時代を、歴史の裏側まで見渡せる物語とすることに成功しています。実際本書の中では、サド侯爵や、男女双方の性での人生を送ったデオンの騎士、シュヴァリエ・デオンといった人物は、物語の根幹にかかわる事件には登場するものの、直接的に物語の中で登場する機会はほとんどありません。本作では、彼らが起こした事件によって人生が変わった登場人物たちが中心になるのであり、それだからだからこその歴史の裏側の深さや暗さを描き出していると言えるでしょう。
 また本作は、これまで女性のドロドロとした内面を描いてきた著者の作風とは雰囲気は異なる歴史ミステリとなっています。女性特融の醜悪さだけが突出するこれまでの著者の作品とは雰囲気は異なるものの、人間のもつ残虐性や救い難い悪というものを、物語が進むにつれて登場人物たちの裏側を見せることで描いています。
 そうした部分では、サド侯爵に関わる事件の真相とともに、主人公のマレー警部自身の意外な素顔が暴き出されていく面白さも本作にはあり、物語が展開するにつれて登場人物の裏側というものがまざまざと見せつけられる展開など、ある意味で真梨幸子らしい描き方であるとも言えるのかもしれません。