ローズ・コナーズ 『霧のとばり』

霧のとばり
 ケープコッドの海沿いの町チャタムで、1年前のメモリアル・デーに起こった殺人事件の裁判の有罪判決を、女性検察官マーティ・ニッカーソンは勝ち取ろうとしていました。ですが被告は山ほどの前科を持つ男で証拠や証言もあるのに、弁護士のハリーは彼の無罪を確信しています。何とか有罪評決を陪審員が出したまさにその日、事件からちょうど1年経ったメモリアル・デーのこの日に、同じ手口で殺された若者の死体が発見されてしまいます。そして1年前の死体には、ローマ数字の「Ⅰ」に見える傷が、今回の死体には「Ⅱ」に見える傷が付けられています。一般には公表されていないこの傷が、犯人が未だ野放しになっている証拠だとして、弁護士のハリーとともにマーティも密かに調査を始めますが、マーティの上司は判決が覆るのを良しとはせず――。

 純粋なリーガルものというよりは、若干サスペンス要素の強い法廷もの、という印象。連続殺人であることを主人公の女検事が徐々に確信していくに足る過程はかなり丁寧に進められ、彼女を取り巻く人物や環境も良く掘り下げられたものであると評価出来るでしょう。
 ただ反面、事件の真犯人へと至る過程は今ひとつ伏線が足りないという指摘も可能かもしれません。徐々に犯人に迫っていくというよりは、仕掛けた罠で一気に犯人の姿が現れるというものですが、それにしては犯人との対決における緊迫感は些か弱いようにも思います。
 ところで、原題の"ABSOLUTE CERTAINTY"の方が、明らかに内容に即していますし、どうも『霧のとばり』という邦題は今ひとつでした。