バーで飲んだ帰りに脳溢血で急逝した作家アール・柱野を偲ぼうと、作家のゆかりのバー<ざばすぱ>で会合が開かれることになります。バーの入っているビルは、翌日の取り壊しが決まっていましたが、半ば無理矢理に管理人に頼んでシャッターを開けて貰い、翌朝まで飲み明かそうと、五人の男女が集います。ですが、ちょっとしたアクシデントから閉められていた店の中に身元不明の死体が発見され、彼らはそれぞれの事情から警察を呼ぶことを躊躇い困惑しますが――。
身元不明の死体、それぞれ警察を呼びたくない事情を抱えるワケ有りの登場人物と、非常にスパイスの利いたシチュエーションであるにも関わらず、終始散漫な印象の残る作品だったと言わざるを得ないでしょう。
また、魅力的なシチュエーションに加えて発見された死体にまつわる真相も、構成次第では最後に大きなサプライズとなったはずなのに、どうにもオチを付け足したように感じられて残念でした。
人物の造詣に関しても、不倫を楽しもうとするが相手はもうあまり乗り気でない医師、閑職としか言えない仕事をしていた会社すら倒産し、生きていることに嫌気が差してこの会合を集団自殺で終わらせてしまおうと目論む男など、「一見普通に見える人々が隠していた姿が徐々に明らかになる」という構成が成功していれば非常に面白かったのではないでしょうか。
作中に挿入される架空の作家アール・柱野のエッセイなども良い意味での皮肉が利いていますし、面白くなる要素はふんだんに備えていた作品だと言えるでしょう。それだけに、色々な部分で未消化であるのがとても残念に思えました。