クリスティアーヌ・ヘガン 『まどろむ夜の香り』

まどろむ夜の香り
 有名な賞を受賞したことで刑務所のTVに映った女性シェフ、アビー・ディアンジェロを見て、彼女の義理の弟のイアンはアビーに金をせびることを思いつきます。28年前にアビーの母親が人を雇うことで、再婚相手であったイアンの父親を殺したと告げるイアンは、アビーに対して口止め料を請求してきます。ですが、苦渋の決断をしたアビーが約束の場所へ行くと、「金をよこせ」とナイフを突きつけたのは、イアンではありませんでした。そして警察からイアンの死体が発見されたと聞かされて、恐喝の事実が知れはしないかと怯えるアビーですが・・・。

 序盤は何と言っても、成功した義理の妹を恐喝することで金を得ようとするイアンの卑劣な人柄の書き込みが、実に良い塩梅であり、中盤以降はそのイアンを追ってきた犯罪者とその周辺の人物など、とにかく悪役の書き込みが単なるステレオタイプでは無くある種のリアリティを持っていることには、一定の評価をすることが出来るでしょう。
 ただ、終盤になり児童誘拐事件が起こると、誰か一人の「悪役」を諸悪の根源としないことでリアリティを保とうとする反面、それまでの伏線が十分ではないために、掘り下げの浅い登場人物に焦点を移さねばならなくなり、非常に散漫な印象を受けたことも事実です。
 また全体的に、サスペンス的な観点からしてもロマンス的な観点からしても、幾つもの要素が未消化で、盛り上がりに欠ける面があったということも指摘出来るかもしれません。