三津田信三 『禍家』 

禍家 (光文社文庫 み 25-1)
 来年中学生になる貢太郎は両親を事故で失くし、祖母とともに東京の郊外に引っ越してきますが、初めて来たはずの場所なのに、何故か不吉な予感を伴う既視感を覚えます。そしてその予感の通り、引っ越してきた家で貢太郎は毎晩不気味な怪異に悩まされることとなります。日が落ちると家で、闇の中から迫ってくるものたちと、不気味な鎮守の森に怯えながら、貢太郎は友達になった礼奈に全てを打ち明け、その家に隠された過去を調べ始めます。

 三津田ワールド全開の、古い家の中の闇に潜む不気味な何者かの息遣いが生々しく感じられ、怪異に追われる恐怖感に満ちたホラーでありながら、これまでの作品の中でも最も読み易いと言える部類の作品。
 主人公を小学生の少年にしたことで、子どもの視点から感じる暗闇から襲い来る恐怖が非常に上手く描かれており、著者の持ち味も遺憾なく発揮されたまさに「三津田信三らしい」1冊と言えるでしょう。
 また、ホラーとミステリの融合ということでは、作家三津田信三が主人公をつとめるシリーズとはまた趣向は異なるものの、本作でも無理なく行われており、むしろ本作のほうが広い読者層に受け容れられる形に仕上がっている気もします。終盤で一気に加速する展開とその結末も、直球のホラー的としても、またミステリの部分でも納得の行くものでした。
 著者の持ち味の良い部分はそのままに、独特の癖の強さを押さえた作品だと評することが出来るかもしれません。