ドジでマヌケで冴えない中年の探偵スタンリー・ヘイスティングズのシリーズの第5作。
序盤から明らかに怪しげな雲行きで、案の定窮地に立たされる主人公の抜けっぷりが相変わらずのユーモラスさに満ちており、本作でもこの頼りない探偵だからこその味が十二分に出ています。
大抵の探偵は警察よりも有能で、刑事を出し抜いて犯人に迫っていくかあるいは警察と協調関係を確立しているような図式が成立しているわけですが、本シリーズでは登場する警察は、ヘイスティングズが可哀想になるほどに有能ですし、それゆえに探偵と警察との間の関係も極めて独特なな関係が成立します。
本作で登場する警察署長のクリーリーも非常に個性的であり、最後の結末においてこの人物を登場させることで、主人公の存在がぐっと引き立っていると言えます。
ヘイスティングズが追い込まれる事件の構造というのは、ある程度序盤から想像もつきますし、その後の真実が明らかになる過程というのも決して意外性のあるものではありませんが、途中やや緊迫感に欠ける展開も主人公の個性には合っていると言えるかも知れません。
シリーズも5作目となると、ある程度のパターン化はありますし、マンネリに陥っている部分も皆無ではありませんが、リーダビリティにしろ人物造詣にしろ、本作も安心して読めるだけの安定感を持っている作品であるのは事実でしょう。