高級老人ホーム<海の上のカムデン>に出入りする庭師のロロが、自動販売機業者のエンリケ・オルテラーノに続いて<海の上のカムデン>の敷地内で殺害されます。捜査にあたったのはいつものマーティネス警部補ではなく、事件に首を突っ込もうとするアンジェラとキャレドニアをあっさりと放り出したベンソンであり、この扱いに、アンジェラとキャレドニアは大層憤慨します。そして彼女らがなかなか進展しない捜査と馴染もうとしない新しい入居者のリナ・ガードナーを気にする中、ついに入居者までもが殺されてしまいます。
高級老人ホームを舞台にした<海の上のカムデン>シリーズ第三弾。
前二作同様に警察は十二分に有能ですし、刺激的な事件に喜び勇んで素人探偵をし出すアンジェラとキャレドニアの事件における役割は、引っ掻き回すことで警察が見つけられなかった解決への伏線を見つけるというものにとどまります。この独特の距離感がシリーズの味として、本作ではしっかりと定着してきた印象もあります。
本作においては、被害者である自動販売機業者と庭師と入居者との間のミッシング・リンクが謎の核となっていますが、被害者を繋ぐこのミッシングリンクの処理にもひと捻りが加えられていて、十分に作り込まれた事件の構造を見ることが出来ます。
また、なかなか進まない警察の捜査そのものも、物語の、そして事件そのものへの伏線になっている辺りも、真相の解明を盛り上げるガジェットとして機能しており、終盤になるとそれまでののんびりムードから一気に物語りは加速します。
そして本作では、これまではアンジェラたちの扱いを心得ていた「ハンサムな警部補さん」マーティネスではなく事務的に彼女らをシャットアウトして不興を買うベンソンとのやりとりもまた、破天荒な老人の傍迷惑ながらもどこか可愛い魅力を存分に引き出していると言えるでしょう。
キャレドニアは進み出て、部長刑事の前に立った。「あたしたちが、さぞ血も涙もないように見えるんだろうね。殺人事件を自分たちの、言ってみりゃ、暇つぶしや娯楽にしてるも同然だって。けど、あたしたちは死ってものを、あんたたちとは少し違って感じているんだわ。たいていの年寄りにしてみれば、死ぬってことは人生におけるひとつの過程でしかない――(中略)そしてロロもしたんだわ」
ベンソンは頷いた。「いいでしょう。でもこれは覚えておいてください。ロロ・バグウェルとエンリケ・オルテラーノは年寄りでもなく、死を覚悟していなかった。彼らにはまだ三十年、四十年の人生があったのに、何者かがそれを奪った。私はこれは腹を立て、憤るべきことだと考えます。そして狂人だろうとなかろうと、犯人をつきとめ罰するつもりです」
p175
このように、嫌われ役となるベンソンも、融通が利かないながらも振りかざす論理には説得力があり、決して単なる嫌われ役には終わっていない辺りに好感が持てました。
難を挙げるとするならば、事件の犯人に関しては、冷徹な犯行を為し遂げてはいるものの、終盤での崩れようを見れば些か杜撰である点が幾つもあることが挙げられます。特にアリバイ作りに関しては、プロパビリティに頼っていると言わざるを得ない部分もあり、またいかに警察の捜査が進まないこと自体が伏線であるとしても、犯人の基本情報の面においての見過ごしが不自然に見えることは指摘できるでしょう。