初野晴 『退出ゲーム』

退出ゲーム (角川文庫)
 高校入学を機にチカは廃部寸前の吹奏楽部に入部し、そこで幼馴染のハルタと再会します。学園祭を前に消えた硫酸銅の結晶、有望なオーボエ奏者の心を解きほぐす為に解き明かさなければならない全面白いるービックキューブ、演劇部との即興劇対決である「退出ゲーム」、そして誰も見たことのない"エレファント・ブレス"の正体。これらの難題にチカとハルタが挑みます。

 個性的でありつつ親しみやすい登場人物、リーダビリティに富んだ学園青春モノと思いきや、その範疇にとどまらず、本格ミステリとしても実に精緻な謎とその解明を楽しめる作品集。
 各作品とも日常の謎として、謎そのものがそれぞれ独自性が高いだけでなく、謎の提示からその解決の魅せ方の上手さが、キャラクターの良さとの相乗効果を見せていると言えるでしょう。
 特に表題作『退出ゲーム』は、演劇部と吹奏楽部それぞれ3名が舞台上で、ある1人を「退出させる」側と、「退出を阻む」側とになって即興劇を繰り広げるという、実にシンプルな駆け引きのゲームが展開されます。その駆け引きで用いられるトリックは、本格ミステリのトリックそのものであり、トリックが明かされた瞬間に舞台劇のすじそのものがガラリと変わる鮮やかさを見せています。さらに、ある事情からサックスをやめた少年の心情と、彼を吹奏楽部に引き込もうとするメンバーの思惑が絡められ、爽快な読後感を味わえます。