三津田信三 『災園』

災園 (光文社文庫)
 相次いで父母を亡くした少女奈津江は、自分の実の姉だという深咲に伴われ、彼女たちの本当の生家である祭園という施設にやってきます。ですが、三紀弥という少年から、「よるはきをつけて べっどでねむっちゃだめだ はいいろのおんながさがしにくるから」という、不気味な忠告を記した紙を密かに渡されます。その忠告どおり、夜になると祭園の新たな住人となった奈津江のもとに、不気味な灰色の女が現れます。灰色の女の恐怖に加え、かつて奈津江や深咲の母だという小佐紀という女性が託宣を受ける場所として使っていた、「廻り屋」という祭園の敷地内にある建物での肝試しをした翌日、祭園の子どもの一人の姿が消えてしまいます。

 本作は家シリーズ三部作の最終章と位置付けられますが、『禍家』『凶宅』に続くシリーズの第三弾としては、やや場所的な因縁の呪縛などの面で弱い印象は否めません。また、全体的には三津田作品としても恐怖の度合いはやや抑え目かもしれません。これまでのシリーズの既刊2作品と比べて、恐怖の度合いが低く感じられる理由としては、『禍家』『凶宅』の主人公たちとは違い、主人公の少女が非日常の世界に幼少期から馴染んでいたこと、相手に立ち向かう姿勢が最初から明確であったということがあるのかもしれません。
 そして、三津田作品としては恐怖の度合いが低めとはいえ、廻り屋での肝試しの正体不明の「何か」が迫り来る描写の上手さなどはさすがといったところ。
 ミステリとホラーとのバランス面に関しては、個人的な好みで言えば、謎解きは祭園や廻り屋、祭家の過去の因縁に絞って、全体としてはもっとホラー寄りでも良かったような気もしますが、突然に非日常性を孕んだ闇が濃くなるような最後の結末は、著者の持ち味を感じさせるものと言えるでしょう。
 ただ、祭園の見取り図が掲載されているにもかかわらず、肝心の廻り屋の見取り図がなかったのは残念。