真梨幸子 『人生相談』

人生相談。
 家に居座った一家が出て行かない、水商売をしていて苦手な客がいる、隣人トラブルがある、過去のセクハラに時効があるか知りたい、大金を拾ったが自分のものにして良いのか、好きで堪らない有名人も自分を好きなはずだ、自分の口座から家族が勝手にお金を引き出した、占いで彼との結婚は不幸になると言われた、追い詰められた貧しい母子家庭の母親悩み。新聞の「人生相談」コーナーに投書されたこれらの相談と、それに対する回答の裏には、その出来事にまつわる人々の陥った思わぬ落とし穴がありました。

 各章の冒頭で提示される「人生相談」は、その記事の読者、編集者、執筆者など多岐にわたる関係者を巻き込んでの思わぬ展開を見せます。そして、そこだけを読めばごく普通であるはずの、各章の冒頭の「人生相談」に対する章末の回答が、間に挟まれる物語を経ると、何とも皮肉に思えてくるのが不思議なところ。それは、本書のどの物語においても発揮される著者らしいシニカルな視点で描かれる、醜い欲望を見せつけてくる登場人物たちの転落の後味の悪さと、対照的にまっとうな視点でしか書かれない「回答」との落差ゆえのものでもあるのでしょう。
 通常の連作短編集などであれば、物語が進み章を重ねるにつれて見えてくる「連鎖」にわくわくするものですが、本作ではその「連鎖」が浮かび上がるにつれて気持ち悪さのようなものが沸き起こってくる辺りが実に秀逸で、著者の上手さが出ていると言えるでしょう。
 最終章での連鎖の全てが明らかになる怒涛の展開は、複雑に練られて積み上げられてきた物語が収束するさまが圧巻でした。