恩田陸 『図書室の海』

図書室の海 (新潮文庫)

 10篇の短編が収録された恩田陸の短編集。
 勿論独立した短編としても読めますけれども、それまで他の恩田作品を読んでいない人がパッと手にとった場合はどれだけ楽しめるのか少々疑問もあります。ただ、非常に恩田陸の先鋭的な部分の凝縮された短編集だということは出来るかもしれません。
 他の長編作品の番外編だったり予告編的作品だったりするものが3篇含まれていることがあるからでしょうが、やはりこの人には長編作家としての側面が強いように見受けられる気がします。長編であればコツコツと積み上げてきたものを最後の最後で読者を置き去りにするかのように見事に崩す面が、短編では些か窮屈になってしまっていると言えるかもしれません。おそらくそれは、短編というボリュームでは物語が収まり切らず、物語の断片としての余韻を強く残してしまうからではないでしょうか。その意味では恩田陸を好きな人には楽しめるけれども、著者の初読の1冊として手に取るには些か不向きというように感じました。
 ミステリっぽいものあり、ホラー要素の強いものあり、SFっぽいものあり、青春小説ありと、著者のマルチジャンルぶりを窺がわせる作品集でした。