第二次世界大戦末期に置き去りにされた4軍用犬「北」「正勇」「勝」「エクスプロージョン」の4頭の犬から始まる物語であり、この犬達の(厳密にはこのうち3頭の)血脈が「ベルカ」「ストレルカ」に辿り着くまでの戦争の世紀、20世紀の物語です。
とは言っても、主人公は人間ではなく犬、しかも単体としての犬ではなく、これらの犬の血脈そのものなので、非常に大きな視点での物語だと言えるでしょう。
勿論、戦争をするのは人間であり、物語の中には人間達も登場します。ですが、ここで描かれる戦争だったり争い、あるいは人の一生というのはあくまでも主眼には置かれないわけです。
人間が犬達を軍用犬として戦争の道具にしたり、あるいは極寒の地でそりを引くための犬とされたり、またあるいはその血統と理想的な身体の美しさから品評会用の犬にされたり、またあるいは、国家の威信を賭けて宇宙へと送りだされたりと、犬達は様々な運命を辿ります。
人間によって運命を、その命すら翻弄される犬達ですが、たとえそれが死であり悲劇であっても、過剰なセンチメンタリズムは一切排除され、大きな歴史の流れをのみ追っているという意味で、非常に面白い一冊でした。
そしてこれらの犬達の血脈が辿り着く「ベルカ」は、いまだ終着点ではありません。
ただ、凄い描き方をした現代史の物語だなとは思いますが、小説として感情移入をどこまで出来るかは、ある程度読み手を選ぶ可能性もあるかなという気もします。