桜庭一樹 『GOSICKVIII上‐ゴシック・神々の黄昏』

GOSICKVIII上‐ゴシック・神々の黄昏‐ (角川文庫)GOSICKVIII下‐ゴシック・神々の黄昏‐ (角川文庫)
 クリスマスを迎え、学園からは学生たちは休暇で帰省し、残った一弥はヴィクトリカの言いつけに従って15個の謎を探しに村へと出かけます。村の宿では、何故か首都ソヴレム辺りから来たような雰囲気の客人で溢れていて、そこからついにやってくる「二度目の嵐」をヴィクトリカは確信します。そして第二次大戦の始まりという「嵐」を前に、別れを告げる間も与えられなかった一弥はヴィクトリカに手紙だけを残しますが、ヴィクトリカ自身も父親のブロワ伯爵によって戦争を左右する道具とされる為に、学園から連れ去られます。

 シリーズ完結編の本作では、常に物語の根底に漂っていた一弥とヴィクトリカの「別れ」がついに現実になります。
 本作では登場人物一人一人が、「戦争」という世界を巻き込む嵐に翻弄され、一人学園に残ったセシル先生は、学園のある田舎町で遠くで過ごす生徒たちのことを思い、イギリスへ帰ったアブリルは、冒険家の孫として戦争への恐怖に立ち向かい、そしてヴィクトリカは彼女を道具として利用しようとする父ブロワ伯爵から逃れるために何度も危うい目に遭い、日本へ帰国した一弥は徴兵されて戦地へと送られます。こうして互いに離れ離れでありつつも、不思議と同調し、心だけはどこかで寄り添うように、ヴィクトリカと一弥は互いの存在を強い希望とし、再び出会う未来への希望によって生かされ続けます。
 本作はコルデリア・ギャロやブライアン・ロスコーといった者たちヨーロッパに住む「古きもの」たちの世界が終焉を迎え、激動の末に生まれる新しい世界への転換期の物語でもあります。これまでは物語の表舞台には中々姿を現すことなく隠れていたコルデリア・ギャロは、娘であるヴィクトリカを守るためにブロワ伯爵に絶望的な戦いを挑みます。その中でヴィクトリカはコルデリア・ギャロらの想いを受け、彼ら「過去」の世界への決別とそこへ引き摺り戻そうとする力からの逃走をすることになります。
 本作は登場人物たちが強く信じた結末へ辿り着くための物語でもあり、ライトノベル的なリーダビリティを持ちながらも重い展開でしたが、それに屈することのないヴィクトリカと一弥の、互いへの想いの強さが印象的な、見事な幕引きであったといえるでしょう。
 上下巻とはいえ、これだけの物語を詰め込むにはややボリューム不足にも思えるほどに激動の展開が怒涛のように押し寄せ続けた作品ですが、過不足なく、一弥どヴィクトリカの物語の全てを書き切ったと評することが出来るでしょう。