桜庭一樹 『GOSICK RED』

GOSICK RED (単行本)
 世界を揺るがせた大戦の嵐に翻弄された末に再会を果たし、ニューヨークに移住して「グレイウルフ探偵社」を開いた一弥とヴィクトリカ。ですが、新聞社で見習い記者としても働く一弥の留守中にグレイウルフ探偵社にやってきたのは、世間を騒がせているイタリア系ギャングでした。脅されてやむを得ず、ここ暫くの間に立て続けに不審な殺され方をしたギャングの謎を調べることとなるヴィクトリカと一弥ですが、その裏では新大陸を揺るがす恐るべき陰謀が動き始めていました。

 ギャング、禁酒法、FBI誕生への動きの垣間見える1930年代初頭という舞台設定は、前シリーズの大戦前のヨーロッパに匹敵する、混沌としているからこその面白さがあり、GOSICKの新しい物語をこの舞台で始めたというのは、作者の慧眼と言えましょう。そして、ヴィクトリカの坐するグレイウルフ探偵社は、どこか前シリーズで彼女が住んでいた学園の図書館塔の螺旋階段を上り切った先の部屋を思わせ、読者にとっては何とも言えない感慨を抱かせるものとなっています。また、前シリーズのエピローグは、本書よりも少し先の時点であったということもあるのでしょうが、ヴィクトリカと一弥の関係も、前シリーズから大きく変わることなくそのままでいる辺りも、前作からの読者にとっては拍子抜けの反面で、前作刊行からの時間的なブランクを一気に消滅させ、「そのまま」の二人の物語に戻ったかのように楽しめる土壌となっているのかもしれません。
 ヴィクトリカの「知恵の泉」で導き出された真相は、厳密にリアリティがあるかと言えばそうとも言い切れない側面もないわけではありませんが、本書が、物語の大枠のしっかりしている上で、スピード感を持った冒険ものとしての面白さと、前シリーズを引き継ぐキャラクターの魅力に支えられた作品であることは、疑いのない事実でしょう。
 今後、ヴィクトリカと一弥は再び、今度はアメリカという国家が抱えはじめる闇の萌芽に翻弄されることが予想されますが、同時に彼らの新たな物語がどこへ行き着くのかに大きな期待を抱かされます。