桜庭一樹 『GOSICK PINK』

GOSICK PINK
 ニューヨークで行われる、ボクシングの試合。チャンピオンは名家の息子、挑戦者は貧しい南部出身者。実はこの二人は、戦争で同じ部隊に所属しており、その際に起こった「クリスマス休戦殺人事件」と呼ばれる事件の犯人として互いを告発していました。ひょんなことからこの事件の犯人を明らかにする依頼を受けたヴィクトリカが解き明かした真相とは。

 移民としてニューヨークへ上陸するなり事件に巻き込まれた前作『GOSICK BLUE』に引き続き、新シリーズ3作目となった本書ではまだ、一弥とヴィクトリカはニューヨークでの自身の立ち位置を確立していない状態にあります。外交官の夫を持つ姉の家に世話になりつつ、一弥はヴィクトリカと生きてくための「家」と「仕事」を一生懸命探し、それまでの境遇から自分のいるべき「ホーム」という概念を理解しきれないながらも、新世界で一弥とともに生きて行くために歩き始めたヴィクトリカの姿が本作では描かれます。
 新世界で足場を築くために、あるいは新たな自分の人生を生きるために、それぞれが自分を模索する一弥ヴィクトリカとの二人によって、大戦の中で起こった事件で心の中の時間が一部止まってしまった三人の元アメリカ兵もまた、戦争の終った新しい時代を歩き始めることになります。
 「クリスマス休戦殺人事件」の当事者たちとは違う場所、違う立場ながらも、奇しくも同じ戦争によって一弥とともに運命を翻弄されたヴィクトリカが解き明かすからこその意味があった本作は、おそらくはこの新シリーズの第1作である『GOSICK RED』の時間へとようやくつながったといったところなのでしょう。
 『GOSICK RED』で仄めかされた、新大陸アメリカで生まれ始めた闇と彼らが今後どう関わっていくのかも楽しみです。