恩田陸 『中庭の出来事』

中庭の出来事
 ホテルの中庭でのパーティの最中に、突然死んだ脚本家について犯人の女優を弾劾する女優。内側の物語と外側の物語が交錯する中、脚本家を殺した容疑者は、次の舞台の主演女優候補である3人の女優に絞られます。
 恩田陸山本周五郎賞受賞作品。

 パーティの最中に突然毒によって殺された男の死の真相を突きつける場面から幕を開ける本作は、3人の女優が舞台上で脚本家の死について警察と思しき男から尋問されるシナリオ「中庭の出来事」、時折挿入される脚本の製作過程を語る脚本家とオブザーバーたる女性が脚本家の男の作品を批評する「中庭にて」、二人の男が幽霊が出るという噂のある劇場へ向かう「旅人たち」など、接近しあっていながら別の階層に属する物語が入り乱れて展開して行きます。
 それぞれのパートが相互に関連しあっていることは話が進むうちに明らかになるものの、単なる劇中劇と言うにはあまりにも複雑な構造を擁しているために、物語り全体の骨格はかなり終盤にならないと把握しきれないでしょう。
 ですがこの複雑な構造、そして女優達によって舞台上で提示されては虚構の中に消えていく真相の多重解決の過程、さらにはその落としどころまでが、実に緻密な計算に基づいて作られた作品として高く評価されるのも道理でしょう。
 あまりにも凝った作りにし過ぎたために、広く一般にエンターテインメント性を持って受け容れられる作品ではないのも事実ですが、恩田陸の筆に翻弄されて独特の混乱に陥れられ、虚実入り混じる舞台を味わえた作品でした。