鮎川哲也 『消えた奇術師 星影龍三シリーズ』

消えた奇術師  星影龍三シリーズ
 星影龍三シリーズの短編集で、『赤い密室』『白い密室』『青い密室』『黄色い悪魔』といった密室ものと、『消えた奇術師』『妖塔記』の人間消失ものを収録。人間消失も含めた密室トリック物、そして著者を投影したミステリ作家の登場しない星影龍三物の6編を集めた珠玉の短編集。
 どれも非常にオーソドックスなだけに、慣れた読者にはある程度使われているトリックの見当は付くものの、本作もどこまでもオーソドックスで地に足の付いた古典ミステリの範疇として楽しめるものでしょう。
 その意味で本書は、盲点をついたトリックのバリエーションの楽しみを前面に出した1冊であり、名探偵星影龍三の個性は、作品を引き締めるスパイスとして機能しています。、密室というミステリにおいては花形とも言える謎に挑む星影はあくまでも天才肌で、良い意味で鼻の付く個性は確立してはいますが、過剰にキャラクターだけで読ませることなく、どれも真っ向から綿密なプロットとトリックの面白さで勝負している作品であると言えます。
 一部言葉の選び方や表記などに古めかしさも感じるところはありますが、これも作品の中に時代性をうかがうことが出来、また、その時代性を感じさせる空気の中でのみ成立する物語として楽しめました。