三津田信三 『首無の如き祟るもの』

首無の如き祟るもの
 戦国時代に斬首された淡媛、そして夫に斬首されたお淡の二人の怨霊を祀る秘守家では、本家の嫡子である長寿朗の十三歳の時に行う「十三夜参り」の晩、長寿朗を見守っていた使用人の少年は、禊の井戸で首無しの女を見てしまいます。そしてこの不可解な事件から十年以上が過ぎ、成人した長寿朗の見合いの儀式の場で、候補の一人が首を切られた死体となって発見されてしまいます。

 「〜如く」のシリーズ3作目であり、シリーズ中最も読みやすく、終始良い緊張感を保ち続けており、おそらく年間ベストにも食い込んでくるだろう1冊。
 因習によってクローズドサークルとなった事件現場に、これでもかとばかりに次々と首無しの死体が現れる本作は、決して目新しいトリックが使われているわけではありません。ですが、非常に精緻かつ複雑な重層構造を見せる真相の解明が実に見事であり、全体の雰囲気といい随所随所の魅せ方といい、文句のつけようの無い出来となっています。首無し死体のトリックそのものは非常にオーソドックスである上に、次々と起こる惨劇も決してバリエーションに富んでいるわけでもないのに、絶妙のストーリーテリングと、ホラーで培った、視点を司る人物の心理面の動きや息遣いが伝わる生々しさとで、見事に「読ませる」作品として仕上がっています。
 そして結末部分における謎の解明では、幾重にも張られた仕掛けにより真相は綺麗にひっくり返され、最後の最後まで緊張感は失われません。また物語の語り手を、シリーズを通した探偵役である刀城言耶にしなかった意味合いは非常に大きく、ラストへの伏線が作者による最後の仕掛けにまで見事に生きてくることになります。
 さらに、作中で述べられるように、「たった一つの事実」に着目することにより、真相の解明が無理なく展開されるという部分で、実質的に「読者への挑戦状」を挿入するに足るフェアプレイの精神も満たした稀有な本格ミステリとして成立していると評価できるでしょう。
 和製ホラーと本格ミステリの融合という意味合いでも、本作ではホラー要素は控え目ながらも要所要所で生きており、非常にバランスの良い作品。
 また、別シリーズで登場する「迷宮草子」が出てきたりと、この1冊を超えたイマジネーションを読者に与える作品となっています。