道尾秀介 『背の眼 上/下』

背の眼 上 (1) (幻冬舎文庫 み 11-1)背の眼 下 (3) (幻冬舎文庫 み 11-2)
 「天狗による神隠し」が囁かれる、子供の失踪事件が続いた白峠村へやって来た作家の道尾は、宿から散歩に出た河原で不気味な声を耳にします。「レエ…オグロアラダ…ロゴ…」という、不気味な声の意味に気付いた道尾は、恐怖のあまり村を逃げ出し、心霊関係の仕事をしているという学生時代の友人の真備を訊ねます。道尾は真備と彼の助手の凛を伴い、真備の元に送られてきた心霊写真と子供の神隠しとの繋がりを探るべく、再び白峠村に向かいます。

 第5回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作で、道尾秀介のデビュー作。
 前半は、次々に自殺する人間の背中に何者かの眼が写り込んだ心霊写真、不気味な声などのホラー要素が色濃い空気ですが、物語が進むにつれ、丁寧な伏線が事件の構図を明らかにしていく、ミステリとしての側面が強く現れるようになります。
 本作では、何か正体の分からない存在の不気味さが、ホラー要素として作品に絶妙なインパクトとなっています。それが中盤以降になると、最終的な着地点がホラーになるのかミステリになるかが判然としなくなり、物語の様相は少しずつ変わってきます。その意味ではホラーだけを期待して読めば肩透かしとなるでしょうし、本格ミステリを期待すれば中途半端な印象を受ける読み手も皆無では無いかもしれません。
 さらに、結末における真相解明部においては、やや説明的で弱いと感じる部分も皆無ではありませんでしたが、終盤で一気に加速し、そのまま結末に雪崩れ込んでいく物語は、本格ミステリとしての高いエンターテインメント性を有していると言えるでしょう。
 また既に作品選考時からの指摘でもあったようですが、言われて見れば、人物配置や基本構造に京極夏彦の妖怪シリーズとの類似は見られないとは言えません。ですがあくまでも全体から受ける印象は別物であり、ホラー的に謎は謎として余韻に残す部分と、キッチリ解明する部分とのバランスも取ってあり、何よりもエンターテインメントとしてのリーダビリティの高さは評価すべきところでしょう。
 個人的にはもう少し、不気味な何かの存在感を強く出してホラー色を濃くしても雰囲気的には良かったのではという印象もありますが、作品としての落しどころもそつなく、また物語の運びも良く、計算された構成と展開の上手さを感じる作品だと言えるでしょう。