恩田陸 『いのちのパレード』

いのちのパレード
 『異色作家短編集』シリーズへのオマージュということで、現実世界と重なりつつもどこか奇妙な世界を描いた短編作品集。
 何故か参加した人々が詳細を語ろうとしない、不思議な村へのツアーで、石で出来た巨大な手が生えてくる土地とそこに関わる人々を描いた『観光旅行』で幕を開ける本書は、次々に展開される奇妙な世界が、車窓の風景のように通り過ぎていく印象です。
 恩田陸お得意の、感じやすい年頃の少女とその純粋さゆえに怖さを孕んだ歪みのようなものを描き出す作品あり、冒頭の一作のようにほんの少しの境界を越えて存在するような別世界としての「場所」を描き出す作品ありで、恩田陸の持ち味が凝縮されていると言っても良いでしょう。
 さらに、連載では最後を締めくくるものでもあった表題作『いのちのパレード』は、地球という方舟に乗った生命がどこへ向かっていくのかという、非常に壮大な物語を綴っています。
 それに加えて最後に書き下ろされた一編にて、有機生命体ではないものが「物語」を綴る者として描かれるという本書の作品構成もまた見事。
 まったく異なる物語を収録しつつも、『異色作家短編集』へのオマージュというコンセプトに則ってつくられた短編集として、ひとつの世界を形成している点もまた見事と言えるでしょう。