紅玉いづき 『MAMA』

MAMA (電撃文庫 こ 10-2)
 魔術師の血筋の「落ちこぼれ」の少女トトは、その才能のなさから一族から放り出されそうになった時、駆け込んだ神殿の奥に封じられていた人喰いの魔物と契約を果たしてしまいます。桁外れな力を持つ魔物と契約したことでやはり一族からは異端視されるトトは、ホーイチと名付けた魔物と互いだけを必要としながら生きていきます。

 基本構造は前作『ミミズクと夜の王』と同じで、桁外れの力を持つ人外のものと、孤独な少女とのどこかいびつな愛情というものが核となる物語。この「いびつさ」を感じさせるキャラクター造詣は、著者の良い意味での味となっており、どこか童話的ですらある作品世界を形成する上で重要なファクターになっていると言えるでしょう。
 主人公の少女と魔物の互いだけで完結してしまう関係という意味では、ある種「セカイ系」に通じる部分もあるのでしょうが、本作は最終的にはそこから一歩出て他の人間を世界に介在させることへの赦しや世界の広がりというテーマにまで踏み込んでいます。
 それが結果的に成功しているかどうかという点では、必ずしもプラス評価をするに十分な水準に達しているとは言えないかもしれませんが、ひとつの物語としては破綻なく閉じることに成功していると言えるでしょう。
 ただ、主人公の少女トトの「孤独」が、あまりにも独り善がりで安直と受け取られかねないところもあり、人物造詣の面で登場人物の感情面やその背景の掘り下げが行われていれば、という部分はやや残念に思います。
 ある程度作風や方向性は定まってきているようなので、次作以降また期待したいところ。