真梨幸子 『更年期少女』

更年期少女
 30年ほど昔にブームを巻き起こした少女漫画、「青い瞳のジャンヌ」のファンクラブの役員的存在である"青い六人会"。少女趣味な服装で飾り立て、「エミリー」「シルビア」「ミレーユ」「ジゼル」「マルグリット」「ガブリエル」の名で呼び合う中高年女性たちが、定例会と称する会食を行うだけの集まりでしたが、一見優雅に過ごす彼女らの複雑な家庭の問題が表面化すると共に、次々とメンバーの殺人や失踪に見舞われることになります。

 人気のあるメンバーをめぐる、会での嫉妬と探りあい、欺瞞に満ちた人間関係、そして現実に戻れば、まともに働かないDV夫との生活や、年老いた母親への寄生など、中年の女性の妄想と現実の生々しさが克明に描かれます。少女漫画という夢の世界と、ドロドロとした女たちのリアルとのギャップがあり過ぎること、そして当の女性たちはそのギャップを受け入れていない、まさに「更年期少女」であることが、作中に漂う異様なムードを作り上げているのでしょう。現実では、社会でも家庭でも不満を抱く彼女らが、あろうとしてなりふりかまわず憧れの夢の世界を引き寄せようとする姿が、何ともグロテスクに描かれます。
 人生の盛りを過ぎた女性たちの直面する耐え難いまでに悲惨な現実と、その現実を受け入れられないがゆえに彼女らがのめり込む夢の世界とのギャップは、やがて一人、また一人とメンバーに向かって大きな歪みとなって襲い掛かります。
 物語が進み、メンバーたちが次々に転落していく姿が描かれると同時に、一大ムーブメントを巻き起こした「青い瞳のジャンヌ」があり得ない形で最終回を迎えた謎、そしてその作者をめぐる謎の存在が徐々に大きくなっていきます。
 これらの人物造詣の生々しさ、そして展開の上手さに加え、鍵となる人物にあるトリックを仕掛けることで、本作はリーダビリティに満ちた勢いのあるミステリに仕上げられています。
 とにかくこういった女性のグロテスクさを書かせたら、この人の右に出るものはいないのではないかと思わせる筆致は、読み応えたっぷりでした。