上橋菜穂子 『夢の守り人』

夢の守り人 (新潮文庫 う 18-4)
 女用心棒のバルサ、呪術師のトロガイ、バルサの幼馴染でトロガイの弟子のタンダらが登場するファンタジーシリーズの第3弾。
 人の夢を栄養にする異界の花が咲き、種を作る時が来て、花の夢に囚われて眠りから醒めない人々が出始めます。かつてこの花の夢に囚われたことで呪術師となったトロガイはいつになく慎重に事を運ぼうとしますが、カヤを助けるためにタンダが花に囚われてしまいます。そして怖ろしいまでに心を奪う歌い手のユグノをひょんなことから助けたバルサもまた、タンダを救うために奔走することになります。一方、かつてバルサたちに救われた世継ぎの皇太子のチャグムもまた、心の隙を突かれて花に囚われることになってしまいます。

 つらい現実から逃れるために見る夢、醒めたくない夢というものの本質を、鋭く描き出した作品。
 世界の成り立ちや国家の根幹部に関わるような壮大さ、あるいはそれらに流されることなく毅然と立つ凄腕の用心棒としてのバルサの姿を描いた前二作から、単に壮大な風呂敷を広げるのではなく、トロガイらを通して「夢」という、ある意味人間の弱い部分も出やすいところに焦点を当てた、いわば「内面の物語」が主となったのが本作であると言えるでしょう。
 そこに描かれる人の弱さに対し、著者の視線はどこまでも温かであり、また真摯であるからこそ、心に響いてくる物語。