上橋菜穂子 『精霊の守り人』 

精霊の守り人
 川で溺れかけた第二皇子チャグムを助けた女用心棒のバルサは、皇子の母親である妃から、チャグムを狙ってくる帝の刺客から息子を守って欲しいという依頼をされます。まだ少年であるチャグムを伴って追っ手から逃れる旅に出るバルサですが、チャグムに宿った異界の生きものの謎をも解き明かすために、呪術師トロガイの弟子で幼馴染のタンダらの助けを借りて、100年に一度の災厄に挑むことになります。

 児童文学から広がった、ハリー・ポッター以降の「大人も楽しめるファンタジー」、中高生以上を対象とした最近のファンタジーというのは、正直なところ、二匹目のどじょう狙いで粗製濫造されて巷に氾濫、といったマイナスイメージを強く持っていました。ですが、本作は十二国記以来初めてと言って良いほどに、しっかりとした世界観とそこに息づく秩序に基づいて描かれた、日本が生み出した良質の異世界ファンタジーとして広くおすすめ出来るものでしょう。
 過剰にキャラクターの魅力だけを強調して読ませているわけではなく、押さえた文体と表現を用いているからこそ伝わるのは、全ての登場人物が作中におけるリアリティを持って生きており、その描き方に嘘がないということです。
 また、単なる善と悪の二元論的な視点で、経験値やイベントをこなして最終章に辿り着くゲーム的な世界とも一線を画し、本作は登場人物と物語を介して、権力と歴史の関係にまで踏み込んで地に足の着いた作品となっていると評価できるでしょう。
 恩田陸の解説にもあるように、母国語で読めるファンタジーとして、高いクオリティを有した作品です。