上橋菜穂子 『天と地の守り人』

天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編 (新潮文庫)天と地の守り人〈第2部〉カンバル王国編 (新潮文庫)天と地の守り人〈第3部〉新ヨゴ皇国編 (新潮文庫)
 ロタ王国編、カンバル王国編、新ヨゴ皇国編の3部構成で描かれる、守り人シリーズ完結編。
 強大な力を持ち大陸に侵攻を進めるタルシュ帝国に対し、近隣の国との同盟の必要を訴える新ヨゴ皇国の皇太子チャグムですが、皇帝やその周囲はあくまでも自国には絶対の神の守護があり、他国に膝を折ることなど考えもせずに戦争への準備だけが進んでいきます。タルシュ帝国の手から単身逃れたチャグムの生存を信じ、彼を探す女用心棒のバルサは、それぞれの国の決して一枚岩ではない事情に翻弄されつつも、国を治める者としての責任を捨てようとはしないチャグムとともにロタ、カンバルへと、追っ手から身を守りつつ困難な旅を続けます。そしてそれぞれの国が揺れる中、バルサを支えてきた呪術師トロガイの弟子のタンダは徴兵され、勝ち目のない泥沼の戦場へと向かわされることになります。さらに、人間の世界の動乱だけではなく、精霊の世界である異界の"ナユグ"でも新たなうねりが生まれ、それは否応なく世界に大きな災害をもたらす兆候が見えてきて……。

 シリーズ完結編の本作は、前作に引き続いて、それぞれの国の中での対立や信念の違いが、タルシュ帝国の大陸侵攻という外圧の中で顕在化し、苦しい立場にあるチャグムをいっそう追い詰めることになります。
 本作ではそうした人間の世界の国と国のレベルでのうねりと共に、その中での個人という単位でのそれぞれの葛藤が描かれ、さらには精霊の世界の新たな季節の始まりという、大きな世界全体の転換点と重なって巨大なうねりが物語を結末へと押し流していきます。
 精霊の世界での大変動、人間の世界での国同士の凌ぎ合い、政治の駆け引き、そしてそこに否応無しに曝される個人としての「人」の物語が見事に融和した結末となったといえるでしょう。
 そしてそれは、大陸の命運を握る人物たちと関わりつつも、あくまでも「人」としてぶれない主人公がいたからこその作品だったとも言えます。