桜庭一樹 『少女七竃と七人の可愛そうな大人』

少女七竈と七人の可愛そうな大人 (角川文庫)
 ある日突然それまでの平凡でつまらない女をやめ、七人の男と寝ることを思いついた母親から生まれた少女は七竃と名付けられ、際立って美しい少女に成長します。北国の田舎町には不似合いな美しさを見せる七竃は、幼馴染の雪風とともに鉄道模型について語り合うのだけを楽しみとして、祖父と二人で暮らしています。雪風を慕う風変わりな後輩の少女、明らかに勘違いだが父親だと名乗る男性、東京から来た芸能スカウト、引退して引き取られてきた元警察犬の老犬、思い出したように時折戻ってくる母親。様々な人の思いが通り過ぎる中で、七竃は唯一の理解者で幼馴染であった雪風とも少しずつ違った将来を見るようになって行きます。

 まず、後に書かれる『ファミリーポートレイト』では、母親と過ごした「少女時代」という時間が、イコール蜜月であったのに対し、本作における七竃と母との関係には、そうした「母と娘」の時間というものが大きく欠落していると言えるでしょう。
 七竃と母親の優菜とはあまりにも異なった存在であり、近しい存在であったはずの幼馴染の少年の雪風も、やがて七竃に告げた芸能スカウトの女性の言葉通り、「思い出になる」存在へと変わって行きます。
 本作において、鉄道模型という、人の手によって作り出された小さな世界はそのまま七竃が「少女」でいるために外界から隔てた世界の象徴であり、雪風との間で守られていた危うい箱庭世界の崩壊とともに、著者の作品『ファミリーポートレイト』でもそうであったように、母親との決別が「少女」時代の終焉の大きな分岐点として描かれます。
 何人かの人物の一人称視点のリレー、七竃という主人公の少女の浮世離れした擬古文的な語り口調などにより、独特の空気を持つ作品でした。