神林長平 『敵は海賊・短篇版』

敵は海賊・短篇版 (ハヤカワ文庫JA)
行方不明になった叔父を探すが、警察も他の住人も、「そんな人物は最初からいなかった」と言うのだと訴える少女の話に、海賊課の刑事のラテルと黒猫型宇宙人のアプロは、背後に海賊の影を感じます(『敵は海賊』)。
仕事のために船に乗せた一人の男に惹かれつつも反発する、女海賊のマーゴ・ジュティは、海賊行為によって横取りした不審な荷を調べる仲間が、怪異現象に曝されるさまを目の当たりにします(『わが名はジュティ、文句あるか』)。
伝説の海賊(よう)冥がまだ伝説になる以前、謎の老人に嵌められて迷い込んだ暗闇の遺跡の中、彼の「良心」たる白猫クラーラが誕生する物語(『(よう)冥の神』)。
海賊課のチーフ・バスターがマスコミに表彰されるという画期的な出来事を受け、受賞記念パーティが催されます。ですが、そこに仕掛けられた罠によって、ラテルとアプロは異次元に飛ばされ、そこで"雪風"という戦闘機に遭遇します(『被書空間』)。

 『敵は海賊』シリーズの短篇集ということで、これまでは短篇集『狐と踊れ』に収録されていた、シリーズの原点『敵は海賊』他、全4篇を収録。
 書き下ろしは『(よう)冥の神』のみですが、これまでシリーズ既刊に未収録だった作品と、そして『戦闘妖精・雪風』とのコラボという、ファンにはたまらない趣向の作品を1冊に纏めたという意味で、非常に嬉しい1冊。
 シリーズの長編作品よりも軽く、それでいながら「敵は海賊」シリーズの世界観と、生き生きと描かれる魅力的なキャラクターを楽しめる作品集となっています。