道尾秀介 『花と流れ星』

花と流れ星
殺人事件のあった家の近所では、その日道路工事があり、その家の子どもが帰宅するまでに犯人が出て行った気配は無かったといいます。真備の助手の凛は、少年の語る密室の謎を、教わった「流れ星のつくり方」を実践しながら考えます(『流れ星のつくり方』)。
バーで飲んでいた作家の道尾と真備の前に、奇術師フーディーニの子孫だという人物が現れます。心霊現象を敵視するその男は、二人にかつて自分の腕が失われた事件の真相を見抜いてみろと勝負を持ちかけてきますが…(『モルグ街の記述』)。
風邪を引いた真備の元に相談に訪れた少女は、捨て猫を飼えずにゴミ捨て場に置いてしまって、そのことで子猫がカラスに突付かれて死んでしまったと言います。そして、自分を怨んでいる子猫が霊となって現れ、携帯電話の動画メールに映りこんでいるのだと訴えます(『オディ&デコ』)。
真備の代わりにある新興宗教施設を訪れる羽目になった道尾は、信仰で見えなくなりかけていた目が良くなったと言う老人と、悪神に取り憑かれて病に侵され、光を嫌う少女らと引き合わされます。さらには一晩泊まることになってしまったその施設で、道尾の前で事件が起こりますが…(『箱の中の隼』)。
友人の結婚式の日に、以前に真備の元に相談にやって来た老人を見た凛は、翌日真備らとともにその老人を訪ねます。孫娘を喪って深い悲しみに囚われていた老人が、同じ年代の子どもらを集めてやる「おたのしみ会」とは(『花と氷』)。

 現在のところ、著者の唯一のシリーズ作品である、作家道尾秀介と霊現象探求所の所長真備、その助手の凛らが登場する初のシリーズ短篇集。
 短篇ということで、オカルティズムとミステリとを上手く配合した長編とは趣が異なるものの、シリーズを支える登場人物の魅力と、小粒ながらも良く出来た謎とその処理で読ませる短篇集となっています。
 アンソロジー『七つの死者の囁き』に収録された『流れ星のつくり方』が個人的にはやはり最も秀逸に思えましたが、他4篇も総じて、登場人物らの抱える哀しみなどの内面描写と言う部分で、長編以上に掘り下げられていた作品集と言えるでしょう。
 そしてこの『流れ星のつくり方』では、語り手たる少年の心に残された傷と、事件の犯人消失の謎、そして読者に対して仕掛けられるミスリーディングなどが実に巧みな技巧でもって描かれます。この短篇においては、少年の哀しみというものは決して直裁的に描かれず、むしろ淡々と穏やかな会話で話は進みます。それだけに、抑えた筆致から伝わる哀しみのもたらす衝撃の大きさに、著者の技量が窺がえます。
 全体的に長編に比べればあっさりとした印象もありますが、本書においては、シリーズの長編では事件そのものへの比重が大きくて中々正面から描かれることの少ない、登場人物たちの抱える内面へのアプローチが様々な方面からなされていると言えるでしょう。