NY市警の殺人課で、警部補のイヴ・ダラスの部下として働く捜査官のピーポディは、普段は誰も使っていないトレーニングルームのシャワー室で偶然に、犯罪に手を染めて殺人まで犯している警察官たちの会話を聞いてしまいます。彼女の報告を受けたイヴは、私利私欲のために犯罪に手を染めた悪徳警官が、違法麻薬課の警部補であり、引退した今でも警察内で聖人と崇められる名警察官の娘であることを突き止めます。
シリーズ33作目の「敵」は、同じ警察官でありながら、私利私欲で犯罪に手を染め、さらには警察官たちの尊敬をいまだ集める父親の影響力すら利用する、狡猾な女となります。
幼少の頃の劣悪な環境から、警察官という道を選ぶことで抜け出し、自身の仕事に誇りを持っており、そのバッジに相応しい人間であり続けようという生き方をするイヴにとっては、本作の敵である悪徳警官たちのしていることは、まったくもって許せないことであり、彼女の怒りと闘志はいつも以上であったようにも思われます。
また、不遇な幼少時代から自力で這い上がったイヴやロークとは異なり、まっとうな家庭に育ち、伝説的な警察官として多くの人の尊敬を集める父親のもとで育ちながら、自ら悪事に手を染める者たちの姿は、実に象徴的な対比を見せていると言えるでしょう。この対比という観点から見ると、彼女らが育った過去の環境だけではなく、上司と部下との関係性という現在の環境の面でも、全く対照的であることも、犯人の人物造形に説得力を与える要因になっているのでしょう。