加納朋子 『少年少女飛行倶楽部』

少年少女飛行倶楽部
 中学に入り、入る部活を決めかねていた海月は、幼馴染の樹絵里が一目惚れした先輩が所属している「飛行クラブ」に入ることになってしまいます。二年の変人の部長と、野球部と掛け持ちの中村先輩に加え、海月と樹絵里の四人では、まだ正式な部活動としての定員に一名足りないまま、海月はこの何をするための部活なのか良く分からない「飛行クラブ」の活動をすることになってしまいます。曰く、"あくまで「自分自身が」飛行することを旨とする。"、"当然ながら「落下」は「飛行」ではない。"、"航空機やヘリコプターなどの飛行は除外される"...。

 中学の部活動、しかも当初は正式な部としての部員数も満たしておらず、実績が何もなかったために予算もない。そんな部で、「飛行する」ことを実現するために、主人公たちはひとつひとつの課題に挑み、そしてそれを乗り越えていきます。
 本作に登場するキャラクター達は一見すると非常にステレオタイプでありながらも、物語が進むにつれて一人一人の掘り下げが自然な形でなされることで、実に好感の持てる魅力的な登場人物となってきます。
 しっかりものの主人公の海月と、「天然」の樹絵里の幼馴染二人にしても、その間にもう一人の女の子が入ることで途端に難しくなるなど、「女の子同士」の関係の複雑さが見事に表われていると言えるでしょう。
 そして「飛ぶ」という抽象的な目的を現実に近付ける過程とともに、登場人物たちの掘り下げを進めるこの物語は、単純なミッション達成目的の物語でも、あるいは大人vs子どもという構図の中での「子どもの勝利」を描き出す物語でもありません。
 何をするにも親や学校の許可が必要で、経済的にも制約だらけの中学生たちが、彼らの年齢でしかなし得ないことをする、そんな爽やかさに満ちた一作。