福田栄一 『狩眼』

狩眼 (講談社ノベルス)
 河川敷で発見された医師の死体は、両眼がくりぬかれていました。この猟奇的な事件を担当する所轄の若手刑事の伊勢は、上司の命令によって本庁から来る戸垣というベテランと組まされることになりますが、戸垣は伊勢を含め周りの誰とも協調せず、周囲との軋轢を平気で起こしてしまう人物でした。

 犯人が執着する"眼"が、事件を解決に導く鍵として機能している部分は非常に巧妙な一作。犯人を指し示す鍵として、そして事件の真相に辿り着く上で不可欠な鍵として、この"眼"が非常に上手い具合に機能していると言えるでしょう。
 そこには、猟奇犯罪を犯す「殺人者の論理」が過不足なく説得力を持って織り込まれており、犯人を直接描くページ数は抑えられていても、犯罪を通じて見事に犯人を浮き彫りにすることに成功していると言えます。
 登場人物も、最近では珍しいくらいに堅実な描写と人物造詣をもって描き出されており、一匹狼のベテラン刑事の戸垣と、彼と組まされて困惑したり怒りを覚えたりする若手刑事の伊勢、彼らを取り巻く他の刑事たちなど、地味ながらも実にしっかりと地に足のついた作品を形成する要素となっています。
 ただ本作は、細部まで手堅く構築された物語である反面、もうひとつ大きなインパクトに欠けていたという面も指摘出来るように思います。
 登場人物、緻密に構成された物語、結末部分でのどんでん返しなど、どれも一定以上のレベルであるにも関わらず、本作は良くも悪くも地味であるという一言に尽きてしまう部分も否定出来ません。
 著者の力量が十分であることがあらゆる面から伝わるだけに、やや物足りなさを覚えてしまう一作でした。