篠原美季 『よろず一夜のミステリー 水の記憶』

よろず一夜のミステリー: 水の記憶 (新潮文庫)
 "「呪い水」で人を殺せる"という噂がネット上で広がり、「呪い水」をかけられた人物が精神的に追い込まれた揚句、実際に死に至る事件も起こります。都市伝説などを扱うサイト「よろず一夜のミステリー」を運営する電子書籍のプロダクションのバイトを始めた大学生の恵は、いけすかない青年社長やサイエンスライターとともに、事件の関係者に話を聞きに行きますが、そこで事情聴取に来た警察官の兄とも鉢合わせをします。

 ネット上で噂になっている呪いで人が死んだのかという謎に対する解明は、それなりに合理的な落とし所がつけられているものの、犯人や真相に関しての記述量が必ずしも十分とは言い切れない部分があるのは、印象としてやや消化不良気味かもしれません。
 事件に関しては、表層的な部分での解決については中盤辺りでおおよその見当がつくものの、その裏にある「呪い」を道具にする人間の闇の恐ろしさを終盤に持ってきたことで、物語全体が綺麗にまとまった感じはあります。
 ライトノベル畑で活躍をする著者ならではの、読者が入り込みやすいキャラクター造詣の良さなどは、出版元に合わせてかやや抑えめながらもしっかりと生きていると言えるでしょう。そうした意味でも、シリーズ第1作として、今後に期待する余地も多そうです。