伊藤旬 『週末のセッション』

週末のセッション (ミステリ・フロンティア)
 インサイダー取引の嫌疑がかけられそうになる証券アナリスト。過去の確執から双子の弟に名前を騙られて借金を負うことになった建築家。知人のジャガーをぶつけてしまって独立資金を失くしそうな商社マン。突然離婚を言い出した妻と彼女との思い出の詰まったマンションを失いたくない調査会社の男。四人の男たちが、それぞれ突然に降りかかったトラブル回避のため、狙いを定めた相手を騙し大金を掠め取ろうとする詐欺ゲームの仕掛け合いの1週間。

 第4回「このミステリーがすごい」で最終選考まで残った作品の改稿作。
 AはBを、BはCを、CはDを、DはAを…という具合に、自身の必要とする資金を相手から騙し取ろうと画策する四人の男たちを描いたクライム・コメディ。ですが、彼ら一人一人には見えていない、四人の輪を描くような繋がりによって、結局のところ詐欺が成功したとしても誰一人として勝ち抜けることの出来ない滑稽さが、本作を単なる犯罪物におさまらない作品とした要因の一つでしょう。
 各人には、それぞれ同情すべき点もあり、彼らの仕掛けが上手くいくことを期待するくらいには登場人物への感情移入もしてしまうのですが、互いに食い合うような構図の関係性を四人が取っている限り、誰もが損をする結果にならざるをえません。
 それゆえに、ベストな結末は望めなくても、誰もが最小限の痛み分けで終わるための結末をどうつけるかが、本作の一つの見どころと言えるでしょう。その結末は、決してハッピーエンドとは言い切れませんが、おさまるべきところに全てが落ち着いたものではあるように思えます。
 そして、月曜に始まり、土曜に一応の結末がつく男たちの騙し合いは、日曜日の行われた終章の"セッション"によって、見えなかった部分が全て明らかになります。これをやり過ぎと見るか、サプライズと取るかは、読者の好み次第で評価が分かれるところなのかもしれません。