J・D・ロブ 『ダーク・プリンスの永遠 イヴ&ローク番外編』

ダーク・プリンスの永遠 イヴ&ローク番外編
 永遠の若さと美貌を望んでいた女性の死は、まるで吸血鬼によって血を吸われて死んだような状態でした。彼女と関わりのあったある男が狡猾な殺人犯であることを感じ取ったイヴは、相手をどうやって追い詰めるのか(『ダーク・プリンスの永遠』)。パーティ会場に現れた血まみれで人事不省に陥っている男を逮捕したイヴは、そのホテルの部屋の一室で行われた何らかの儀式によって殺害されたらしい被害者を発見します(『六〇六号室の生け贄』)。家族旅行で訪れたニューヨークでフェリーに乗っていたある母親が姿を消し、彼女が入っていたらしいトイレで大量の血痕だけが発見されます。彼女に何があったのか、そして消えた死体はどうなったのか。やがて事件の裏に、イヴ自身も無関係ではない過去が浮かび上がります(『船上で消えた死者』)。

 イヴ&ロークシリーズの中編集。収録された3本の中編は、いずれもオカルトや不可能状況といった怪奇的なガジェットを盛り込んでありますが、一見して似たようなオカルト・怪奇趣味といったものに対して各編それぞれ異なるアプローチを果たしていると言えるでしょう。
 表題作『ダーク・プリンスの永遠』においては、ヴァンパイアを彷彿とさせる存在感を示す相手が、自らの力を誇示してイヴたちに挑んできます。しかしながら相手の使った手段を明らかにすることで、ヴァンパイアを単なる殺人犯に過ぎないレベルに落とし、人外による怪奇を人間による猟奇へと変質させる物語に仕立てられています。
 そして『六〇六号室の生け贄』では、被害者を含め、卑劣な殺人を行った犯人に利用された人間を解明することで、裁かれるべき犯罪者として犯人の全てを暴き出すことになります。
 末尾を飾る『船上で消えた死者』は、消失する遺体と犯人という不可能状況の提示は一見してミステリの王道を思わせますが、犯人の正体が明らかになるにつれ分かってくるのは、このシリーズの世界観ならではのSF要素と、イヴたちだけでは対処することのできない強大な存在です。物語として、今後のシリーズに何か影を落とすことがあるのでは?という期待をさせられるような要素もあり、そうした面でも楽しめた一作でした。