J・D・ロブ 『パーティーは復讐とともに イヴ&ローク38』

パーティーは復讐とともに イヴ&ローク38 (ヴィレッジブックス)
 仕事を辞めた揚句に恋人の貯めた金をギャンブルにつぎ込んで別れを言い渡されて住まいも追い出された26歳の青年ジェリーは、全てを周囲のせいにして言い訳をしながら実家で怠惰に過ごしていました。母親から「一ヶ月以内に仕事に就かなければ出て行ってもらう」との最後通牒を言い渡された彼は、両親を殺害します。殺すことで本来備えていた残忍な欲求を開放することを覚えたジェリーは、楽しみながら自分に屈辱を与えた人間への復讐をはじめます。

 シリーズ38作目。
 感謝祭を控えたニューヨーク、アイルランドに住むロークの親戚たちが祝日にやってくるというイベントを控え、大きな事件もなく珍しく平穏に過ごしていたイヴのもとに、伝統を大事にし、周囲の人たちから慕われていた夫妻が殺害された事件が舞い込みます。この二人を殺害した実の息子のジェリーは、自分が上手くいかないのは常に誰かのせいであるという言い訳をし続けて生きて来て、彼の父親や恋人が仕事の口利きをしてくれても、生来の怠惰と「自分はこんなつまらない仕事をする人間ではない」「自分の価値が正統に評価されていない」という理由ですぐに仕事を辞めてしまいます。そんな自己中心的な青年が初めて自分の力で成し遂げた「殺人」により、相手を支配し自分の力を誇示することを覚えます。
 これまでの既刊作品の多くと比べると、本作の犯人であるジェリーは、決して狡猾で頭の切れる犯人ではありません。むしろ、人生の落伍者への道以外に残されていない徹底した「クズ」として描かれますが、それだけに人間の誰もが持ち合わせている弱さや狡さの象徴として、犯人の利己的な性質が身近なものとして読める側面があるかもしれません。
 導入部から犯人は分かっていますし、犯人自身もたまたま運が良かっただけで警察を出し抜くだけの能力があるわけでもない、要するに犯人が誰かを絞り込んでいく過程も必要なく、能力を尽くしたまた犯人との駆け引きの緊迫感を楽しむという要素もないという意味では、本シリーズの中でもある意味この作品は異色作と言えるでしょう。
 ですが、それでもなおかつ読ませるだけのリーダビリティと、深い人間観察に基づいた人物造形がなされており、作者の技量をうかがわせる一作。