藤本ひとみ 『聖ヨゼフの惨劇』

 何となくいつの間にか買っていた1冊です。どうやら昨年の暮に買って積んであったようですが、いつ買ったのかという記憶も記録もありません。

 それはさておき。
 面白かったんですよ、これが。
 フランス革命の翌年が舞台で、主人公は映画にもなった実在の人物ヴィドック。10代半ばから公文書偽造の罪で投獄され、脱獄を繰り返すうちに犯罪社会に詳しくなってしまい、後にはその才覚と経験を見込まれて警察に勤めたという人物です。
 そして退官後は世界初の私立探偵となったらしくて、彼の存在は後に『レ・ミゼラブル』の主人公のモデルにもなり、あるいはポーの作品にも影響を与えたんだとか。
 このヴィドックが15歳の時脱獄不可能といわれる監獄に入れられて、そこで過去に起こった事件と現在起こっていることを探りつつ脱獄のチャンスを探る…というのが本作です。

 まぁ事件の真相というのは大体予測通りでしたし、謎の解明が一気に鮮やかに解かれるというよりは、徐々に明らかになってラストを迎えるという感じでしたので、サプライズはそれほど大きくありませんでした。
 ただ歴史上の人物や作者が作り上げた架空の登場人物たちが、非常に親しみやすいんですよね。この辺の人物の魅力とか文章の読みやすさはやはり藤本ひとみの魅力です。

 ところで藤本ひとみという作家の名前を見ると、微妙に懐かしかったりします。
 かつてコバルト文庫で乙女の夢の世界をバリバリに爆進していた作家だったりするわけですが、意外にその辺のギャップはなく現在書いている歴史小説の分野の作品も過去の作品もそれなりに好きだったりします。
 とりあえず次、『聖アントニウスの殺人』買ってみたいと思います。