アガサ・クリスティ 『チムニーズ館の秘密』

 クリスティの冒険物っていうと、やっぱり月並みですが『秘密機関』好きです。でも『チムニーズ館の秘密』も途中からのめりこんで一気に読んでしまいました。(序盤ちょっと中々進まなかったのですが)

 バルカンにある架空の国の王政復古や政情不安、そして世に出れば国を混乱させる恐れがあるというある人物の回顧録の原稿という、非常に豪華な舞台立て。そこに登場するのが野心的で才覚もある若者としたたかで一癖もふた癖もある捜査陣と社会的地位を持つ面々。そこには王位継承者だの大泥棒だのスパイだの急進的な組織だの政府のお偉方だの。更に主人公がアレですからね。一歩間違えれば陳腐なことこの上ないラストになるのですが。
 これだけ詰め込んで三文芝居にならずにちゃんと楽しめるんですよねぇ。戯曲化もクリスティ自身の手でされている作品だそうですが、確かにサスペンスフルな冒険物語なので舞台も面白いかもしれません。
 それにしてもシリーズ作品としては「バトル警視もの」に分類されますし、あらすじとか読むと真打はバトル警視のようなのですが、主人公は主人公でやっぱりアンソニー・ケイドなんですよね。どちらも引けを取らない存在感ではありますけど。