石持浅海 『扉は閉ざされたまま』

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

 倒叙ものというと、どうしても平坦な展開という先入観が苦手意識になっている部分があるのですが、本書はその犯人と探偵役の微妙な関係が非常に良い緊張感を出していたように思います。とにかくラスト、この犯人と探偵役の駆け引きがこれまでには無い面白さがありました。
 密室トリック自体は至ってシンプルなものですし、倒叙というものの性格もあって最初からトリックについては分かっているのですが、登場人物間の心理的駆け引きが丁寧に描かれているのでとても良く出来た作品になっています。
 密室の中で何が起こっているのか、最後の最後まで推理だけで「扉は閉ざされたまま」物語が進んでいくという演出もとても面白かったです。
 ただし、終盤で明らかになる犯行の動機に関しては今ひとつ弱いという印象も。確かに「彼ならばその動機で殺人を犯すに足る理由はある」と言えるだけの書き込みはなされているものの、今ひとつ説得力には欠けたかなと言う気もします。