法月綸太郎 『キングを探せ』

キングを探せ (講談社文庫)
 それぞれが殺したい相手をもつ四人の人間が、カラオケボックスで殺すべき相手を示す、A・Q・J・Kの四枚のカードを引き、各自が誰を殺すのかを決め、犯行にうつします。難航する警察の捜査の過程で発見されたこのカードから、法月警視とその息子で作家の綸太郎は、事件が交換殺人であることを見抜きますが・・・。

 本作では交換殺人をテーマにした倒叙かと思いきや、途中から犯人視点ではなく、法月親子の捜査側視点へと切り替わります。そのことにより本作は、犯人側の視点で、警察や探偵役の登場人物との頭脳線を繰り広げつつも、小さな綻びから徐々に完全犯罪が崩れて行く倒叙小説の要素にプラスアルファを加えた一作となっていると言えるでしょう。
 犯人たちがハンドルネームのような偽名で互いを呼び合っている辺りで、ある種の仕掛けが隠されていることは読み慣れた読者には一目瞭然ではありますが、小技が利いたひと捻りがあることで、著者の仕掛けた仕掛けは成功していると言えるでしょう。
 ガチガチの本格でもなければ、大仕掛けのサプライズがあるわけでもない、さらに言えば交換殺人自体に現実におけるリアリティがあるかと言われれば微妙なところもある一作ですが、読者を引き込むリーダビリティや、作中での論理の整合性はキッチリしている、著者らしい作品に仕上がっていると言えるでしょう。