[読了]貫井徳郎 『さよならの代わりに』

さよならの代わりに
 殺人事件は起こるものの、ミステリというよりはミステリチックなSFであり、青春小説・恋愛小説的な色合いの強い作品といった印象。いわゆるタイムトラベルもので、その部分に関しては非常に緻密な構造が見られますが、殺人事件の真相そのものはをメインとして期待すれば些か拍子抜けするほどの扱いとなっています。
 主人公の和希の視点で語られる物語は、冒頭と末尾で事件の二年後の時制となっているため、最初から彼が時間を越えてやってきた女の子と出会うことは分かり切っているのですが、現在時制に戻った和希の視点では、その女の子が未来から来たということなど分かっていないがゆえのもどかしさがあります。
 個人的には些か過剰な青臭さに辟易する部分はありましたし、未来から来た祐里という少女の心情を計るほどには彼女に対する書き込みが薄いという弱さも感じます。ただこれは、あくまでも主人公の「ぼく」視点で物語が語られる以上、そのキャラクターに対する好き嫌いという要素が大きいのでしょう。
 「またね」と言って和希の時間では2年後に出会えるだろう少女が去っていくラストは、切なさとともにそれだけでは無い一抹の救いがあるようにも見えますが、著者の施したタイムトラベルの仕掛けを知っている読者にとっては実は救いの無い終わり方でもあります。
 決して後味の悪い作品ではないのですが、如何せん最後の部分が駆け足であった印象もありますし、個人的には苦手なテイストだったかもしれません。