キャサリン・コールター 『土壇場』

土壇場

 FBI捜査官のレーシー・シャーロックとディロン・サヴィッチ夫妻のシリーズ3作目ですが、本作ではサヴィッチの部署に5ヶ月前に配属されたデーン・カーバー捜査官と、何やらわけありの謎の女性ニックが主役となっています。
 物語は、FBIの捜査官デーンの双子の兄で司祭をしているマイケルが、教会の告悔室で銃殺される場面から始まります。犯人は告悔室という、司祭と二人だけの密室で自分が行った殺人を得意げに語ることで、それを他人に話すことが出来ない善良な司祭が精神的に追い詰められる様を楽しみ、その果てにマイケルを殺害します。
 事件を追う地元警察とデーンの前には、唯一の事件の目撃者である、ニックと名乗るホームレスの女性が現れますが、彼女は頑なに自分の本名や抱えている事情を明かそうとはしません。
 マイケルや他の犠牲者を殺した連続殺人犯は一体何者なのか、そしてニックが抱える複雑な事情とは何なのか――という、非常に良く出来たストーリーが本作では展開されます。

 主軸となる、デーンの兄が被害者となった連続殺人事件の合間合間に、ニック自身の抱える事情でも命を狙われていることが分かったり、二つの事件が絶妙の配合でもって進んで行きます。
 ただ、犯人の異常性を感じさせる犯罪ではあるものの、これまでのシリーズ2作品に比べると犯人との駆け引きや対決という部分では、少々物足りない気がしなくもありません。せっかく魅力的な犯罪の演出をしているのですから、その辺りがもう少し描かれていれば、もっと楽しめたのになという気はしました。
 その一方で、主軸となる事件で感じた不足を補うかのように、思わぬ展開を見せるのがニックの方の事件です。物語が進むにつれて徐々に現れる疑惑、そして二転三転するラストの目まぐるしい展開など、緊張感を最後まで味わわせてくれました。
 一応これもロマンス小説のカテゴリには入っていますが、普通にサスペンスものとして十分に楽しめますし、ロマンス部分にもこの手の小説にありがちな薄っぺらさも感じさせず、ごくごく自然な展開で楽しめました。

 どころで、"eleventh hour"で土壇場という意味になるのは、初めて知りました。辞書で調べたらそのまんま出てきますね。